上遠野浩平『禁涙境事件』(講談社ノベルス)(ISBN:406182404X)

読了。
〈事件シリーズ〉という講談社のネーミングセンスはあんまりにひどいと思う。〈戦地調停士シリーズ〉とか他にもっとマシなの考えられなかったのか。
それはともかくとして、今回の『禁涙境』はこれまでの長編とは少し趣を異にしている。禁涙境という街の30年間に起きた事件を、関係者が思い出しながら語るという、オムニバス形式になっている。無論、それらの事件は最終的に関連しているという、ミステリとしての解決が用意されている。喩えるなら上遠野の出世作ブギーポップは笑わない』と同じ構造をしている。が、あの解決はどうなのよ。(以下トリックに触れそうなので反転)
あのトリックが成立するためには、「犯人の動きを関係者が完全に見逃し」「矢の飛んできた先に何があったかを、現場にいた人が確認せず」「その矢がどこからもちこまれたのかを、現場の人が気にしなかった」場合にしか成立しない。しかし、現場から「弓」が発見されなかった、ということまで調べているのに、矢の由来も、そのときの立ち位置も確認しないなんてあり得ないでしょう。冒頭の天秤塔の話から、てっきり天秤の先と矢を紐で結びつけて、振り子のようにした(最低点を過ぎてから刺さったので、地面から飛び出したように見えた)って解決のほうがよっぽど論理的じゃないかと。……あれ? でも、このトリックってどっかでみたような……
ちなみに、最後の真犯人とEDとの対決が、いーたんチックで、西尾マニア大喜び。残酷号のイラストが金子一馬全開で、メガテンマニア大喜び。第四章が上遠野節全開なので、上遠野マニア大喜び。