東野圭吾『容疑者Xの献身』(文藝春秋社)(ISBN:4163238603)

 直木賞受賞作。このミス1位。
 ミステリかどうか、という問いならば、問答無用でミステリであろう。倒叙ミステリであり、叙述ミステリでもある。ただ、ミステリとして特別にアクロバティックなことをしているわけではない。トリックについては既に賛否両論あるようだし、わざわざ書くこともない。さらに言えば、この本がベストセラーになったのと、ミステリであるかどうかは恐らく関係ない。本格かどうかということとは、もっと関係がない。第一、あのトリックってよく考えたら貫井徳郎(略
 では、人々はどこに惹かれてこの本を手に取ったのか? 謎解き? いやいや、愛情とか友情とか、人間関係の綾を綺麗に書いていることの方がよっぽど重要だったのではないか。だからこそ、最後の謎解きの場で、湯川と草薙、石神と靖子の関係がどうなるかという点に重点を置かれたのではないだろうか。さらに言えば、靖子の抱いた石神への恐怖や、草薙の抱いた湯川への疑念を、あまりドロドロと書いていないのも、(良い意味でも悪い意味でも)綺麗な人間関係を描くためだったように思える。
 個人的には、あまりに人間関係が綺麗すぎて「本当はもっとドロドロした話の方がいいんじゃないの?」と思わなくもない。『探偵ガリレオ』と比べても、『白夜行』と比べても、中途半端な印象がぬぐえない。