ジャック・リッチー『クライム・マシン』(晶文社)

 話のついでに、ジャック・リッチーの短編集をお借りした。
 ジャック・リッチーはヒッチコック・マガジンやEQMMで活躍した短編の名手。星新一ばりのショートショートもものにする、最近ではあまり見ないタイプのミステリ作家である。1981年には「エミリーがいない」でMWA最優秀短編賞も受賞している。
 軽快で簡潔な文体は読みやすく、それでいてインパクトのあるトリックが用意されている。作品のほとんどが一人称で、叙述(的な)トリックにおいては、長編よりも短編のほうが効果的な場合が多い、ということを証明しているように思う。読者に想像の余地を与え、なおかつその想像を上手に誘導する書き方が実に絶妙。どこで引っ掛けられたのか気になって、思わずもう一度読み返したくなる。
 表題作「クライム・マシン」や代表作「エミリーがいない」のほかに「ルーレット必勝法」「カーデュラ探偵社」のようなミステリ的な作品から、「記憶テスト」「切り裂きジャックの末裔」のような(いかにもヒッチコックっぽい)奇妙な後味の作品まで揃っていて、さらりと読めたのであった。