綾辻行人『暗黒館の殺人』(上・下)(講談社ノベルス)(ISBN:4061823884,ISBN:4061823892)

読了。分厚い本で上下巻。長い。
満を持して刊行された綾辻行人の「館シリーズ」最新刊。随分長いこと待たされたが、それに見合うボリュームの大作となっているようないないような。
内容は「ビールだと思って飲んだら麦茶の炭酸割りだった、みたいなっ!」(比喩です。本編にはビールも麦茶も出てきません)。偶然を因縁と言い換えたって、ダメなものはダメです。
二重の意味で「視点が定まっていない」感がひしひしとある。一つは、作中の視点が「”視点”」とダブルクォーテーションで囲まれて固有名詞として扱われているのだが、(『殺人鬼』のようなB級ホラーならともかく)超越的な神の視点からの叙述は、ミステリには適合しないが故に、ホームズ先生の昔からワトソン役が存在しているのではなかったか。
もう一つは、八年間かけて書かれたせいか、作中のトーンが一致していない。突如として「おにいさま、結婚して」と双子の美少女に言われたり、年上の友人(♂)が主人公(♂)の手を握って、目を潤ませながら「俺を信じてくれ」とか言い出したり。その出し方に必然性が感じられないので、結果、作品全体として何がやりたいのか、ピントがぼけてしまっている。もっと分量を減らしてでも、因縁と因習に拘ったホラーとして作れば、かなり怖い作品が作れただろうに。
ネットを見ると、「出たことに意義がある」とかいう批評が多いようですが、商業出版でそんなことはありえないので。あしからず。