有川浩『空の中』(メディアワークス)

読了。単行本。吉祥寺文教堂で本棚一つ丸々占拠していてビビった。
話の一番重要な部分が前半1/3で出てしまうのはどうかと思うのだが。で、ネタバレ注意。
空飛ぶ怪獣小説。少年と拾った怪獣のコミュニケーションというのは、ウルトラマンとかで時々あった記憶が。怪獣小説の面白いところは、怪獣の正体が分からないところにあるわけで、そういう意味で、序盤から早々に自己紹介してしまう怪獣ってのは、どうなのか。怪獣としての自覚があるのか、と。
まあ、作者が重点を置いていたのは、怪獣そのものではなく、怪獣が出現したことによる関係者の心の闇、みたいなものだったのであろうから、序盤に状況を説明して、中盤以降、怪獣を拾った少年と、その幼なじみの少女と、怪獣を憎むグループのリーダーの心情を追っていく、という構成には十分理由は感じられる。
が、それならそれで、山場であっさりとラスボスが降参してしまう構図はどうなのさ。まさにサンドバッグのように、善人軍団に難詰され、挙句の果てにあっさり取り乱してボロを出してしまうとは、あまりに無能。そういうキャラじゃない、って散々描いてきて、土壇場で突然馬鹿丸出しになるってのは、一体何なのか、と。やっぱり、落ちを付けるのが苦手な作家なんでしょうか。

面白さ的には、『塩の街』序盤>『空の中』序盤〜中盤>『塩の街』後半>『空の中』終盤
序破急がはっきりしているのは、この作家の特徴だと思われる。