ふらんす

(その1)
 一人で近所の定食屋に行ったら、知り合いがフランス人の女の子と飯を食っていた。
 せっかくなので、相席させてもらった。こっちは当然フランス語を喋れないので、お互いカタコトの中国語で会話することになる。
 お互いに中国での生活の話をしたり、勉強の話をしたりしたあと、自然と自国の大学の話に話題が流れた。
 日本の大学生は一日にどれぐらい勉強するのか、とか聞かれても、まあ、その、何だ、困ったのだが、それは話の本筋ではなく。
 そのフランス人の彼女は、去年は五ヶ月ぐらい「罷工」してたから、という。知らない単語なので戸惑っていると、「要するに大学に行かないのよ」と説明してくれた。要するにサボタージュか、と納得して、(僕が言えた義理ではないが)大学に五ヶ月も行かないのはさすがにどうなのか、みたいな話をしていたのだが、どうも話がかみ合わない。本人は至って真面目な学生のようだし。
 で、こっそり知り合いの持っていた電子辞書で調べてみると、「罷工:同盟罷業(する)。(労働者が)ストライキ(を行う)」。
 いや、サボタージュじゃなくてストライキかよ!
 そういえば、去年のフランスはCPE(新雇用政策)反対運動で大揉めだったんですよね。さすがに学生ストライキなんてとっさに頭に浮かんで来ませんでした。


(その2)
 飯を食った帰り道、彼女が「ポスターを探している」と言い出した。どうやら寮の部屋が殺風景なので何か貼りたいらしい。
 どんなポスターを探しているのかと聞くと、
「写真じゃなくて、絵が描いてあるの。それもカラフルな」
 とおっしゃる。
 なるほどさすが芸術の国フランス。後期印象派か、あるいはアールヌーボーですか。
 そういうポスターだったら、大き目のデパートか量販店に行けば安く買えると説明しようとすると、彼女が一言、
「いや、そういうのじゃなくて」
 じゃあ、一体どんなのなのか。フランスといえば日本趣味。浮世絵みたいなやつだろうか。あるいは水墨画……はカラフルじゃないし……。
 彼女はひとしきり説明しようとして困っていたが、やがて、
「うまく説明できないけど、フランス語だと『マンガ』っていうんだけど……」
 いやそれ、日本語ですから! フランス語でもマンガはマンガなのか。
 要するに、アニメのポスターを探していたらしい。それだったら、露店でいくらでも買える。
 いやはや、さすが欧州最大のオタク国家フランス!