ジョー・ヒル『二十世紀の幽霊たち』(小学館文庫,ISBN:4094081348)

 新人の短編集というと、普通はエッジの利いた、極端な作品を連想しがちだが、この短編集は非常に落ち着いた安定感のあるホラーで満ちている。それも、ショッカーやスプラッターではない、幻想的とすら言える美しいホラーだ。「トワイライトゾーン」のような、日常の延長線上にある異界を描いた18の短編は、いずれも文学的な抑揚の効いた文体と、先人へのリスペクトに満ちている。
 中でも表題作「二十世紀の幽霊」と「自発的入院」は、現実と異界との接点に触れてしまった人間の、業とも言うべき姿を、非常に美しいものとして描いている。ホラーなのに、泣けるのだ。また、「うちよりここのほうが」は、まったく怪異が現れず、ホラーとは呼べないかもしれないが、しかし、少年時代の子供のセンシティブな部分と、達観した部分を、抑えたタッチで描いていて、読んでいて胸が締め付けられる。「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」は、バカバカしくもケバケバしい、ジョージ・ロメロ監督による伝説のホラー映画の撮影現場を舞台としている。ホラーを題材にしているだけで、ホラーではない(怖くないという意味で)が、この短編集で1,2を争うストーリーテリングであることは間違いない。
 なお、多くの作品で「少年と父親の関係」がホラーの重要なポイントになっている(「蝗の歌を聞くがよい」「ポップ・アート」「アブラハムの息子たち」「おとうさんの仮面」)。父親を崇拝しつつ、そこから逃れようとする少年の姿は、作者ジョー・ヒルの内面をそのまま映し出しているのではないだろうか。(ジョー・ヒルの父親を調べてみると、ものすごく納得できるのです)