壊れない冷蔵庫

 業界研究フェア最終日。最終日の基調講演は、CEDEC本体の基調講演を中継したもの。登壇するのは堀井雄二スクエニのスタッフ。テーマは「国民的ゲームとは何か?」。内容はもちろん、ドラクエ?の話。
 堀井雄二の話は、たとえ話を多く使ったり、昔の状況と今の状況を照らし合わせたり、非常に面白い。会場内ですれ違い通信を始めたのもびっくりした。サービス精神旺盛だなあ、と。
 印象に残ったのは、ドラクエ?を「終わらないゲーム」として設計していたという点。コミュニケーションツールとしてのシステムを強化することで、クリアした後も何度でも遊べるようにしたとのこと。具体的には、すれ違いと地図、そして、ほぼ無制限に成長し続けるシステム。従来のドラクエでは、ラスボス(隠しボス)を倒した後、キャラクターを成長させるモチベーションを保ち続けるのが困難だったのだが、ドラクエ?では、宝の地図の存在によって、キャラを成長させるモチベーションを維持し、さらにそのキャラを使って、マルチプレイで楽しむことが出来る設計にしているそうだ。
 コミュニケーションツールとしてのゲーム、という点をシステム面から追いかける、という発想は、これまでのドラクエにはなかった方向性であるように思う。かつて、スクとエニがそれぞれ別の会社だった頃は、「ストーリーのドラクエ、システムのFF」と言われていた。2社が合併したのだから「システムが強化されたドラクエ」が出るのは当然かもしれない。
 最近の流行としても、ゲームをコミュニケーションツールとして使う方向に進んでいることは間違いない。全てはモンハンの大成功に始まるんだろうけど(以前、CCB君が「モンハンの悪弊!」と叫んでいたのを思い出した)。
 「100時間ぐらいすぐに遊べちゃうよね」。という開発者のコメントは、まさにその通りなのだろうけど。
 1000時間遊んでいるプレイヤーもたくさんいるんだろうけど。
 それって、かなりヤバいんじゃね? というのが今回の感想。
 コミュニケーション強化型の傑作ゲームが昨年、今年と続けて出るのはすばらしいことだ。スルメのように何時間でも遊べるのは、消費者にとってリーズナブルだし、友人と一緒に遊んでもらえるのは、ゲーム会社にとっても売り上げが期待できるのだから、WIN-WINの関係を築けそうだ。
 モンハンもドラクエも、過去5年で見ても稀なぐらいの大ヒット作である。
 なのに、ゲーム業界の売り上げ自体は、あまり増えていない。昨年ですら、微減している。
 なぜか?
 そんなリーズナブルで面白いゲームがあれば、消費者はそれしか買わないからだ。しかも、コミュニケーション強化型のゲームが複数あった場合、「みんなが買っているゲーム」を買うことが一番楽しむための近道になる。結果、少数の化け物ゲームと、その他の全然売れないゲームにはっきり分かれてしまう。さらに、そういったゲームは100時間、200時間と遊べてしまうのだから、ますます他のゲームは買わなくなってしまう。買っても遊ぶ時間ないんだもん。
 ドラクエ?はいいゲームだと思う。モンハンももちろんいいゲームだ。だけど、それは市場で考えた場合「百年壊れない冷蔵庫」みたいなものなんじゃないかと思う。みんなどっと買うけど、一回りしてしまえば、もう誰も新しいものを必要としなくなってしまうような。技術革新でもっと面白いものが作れるようにはなるだろうけれど、1、2年の短期的に見れば、明らかに業界全体をシュリンクさせる原動力の一つになっているように思える。
 囲碁・将棋・ドラクエ、みたいなスタンダードな娯楽として定着させようというなら、それはそれでいいのだが、囲碁メーカーや将棋メーカーはスクエニのようには儲かってないですよ?
 もちろん、消費者の立場からだけ言うなら、面白いゲームを1本買えば、一年間遊べるというのは悪くないんですけどね。でも、経済的にかんがえて、そんな状況を持続できるはずないよなあ。
 どうするんでしょうね(オチはありません)。