エレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫,2009)(ISBN:448816806X)

 長年絶版になっていたマクロイの名作が、新訳で復刊された。そして買ったまま放置していた。
 中央線に揺られながら読了。
 ニューロティックサスペンスの古典的傑作。長編小説ではあるが、かなり短い。分量も多くはないのだが、中盤以降の展開が早いので、実際の分量以上に短く感じる。
 問題があるとすれば、あまりに古典になりすぎて、今のすれっからした読者には、冒頭の1章分でオチが読めるところにある。オチが読めても、その過程を楽しむことができるので、問題はない、といえばないのだが。しかし、犯人を捜すドキドキ感が薄いのは否めない。
 強いて言えばコロンボのような倒叙的な読み方しか、現代の人にはできないのか……というより、一番近いのはドリフの「志村うしろーっ!」なのだが。ギャグという意味ではなく、登場人物が気付いていないことを、観客席からは見えているのに、来るべきカタストロフをじっと待つしかないもどかしさ、といった感覚。
 発表された当時の人々は、このトリックを新鮮な思いで読むことができたのだろうなあ。少しうらやましい。
 あと、三橋暁の解説は、これだけあからさまなトリックのネタバレを全力で回避しつつ、作品の内容を説明しているという、ギリギリのバランス。解説が本文に負けず劣らず、オブラートにつつんだ言い回しをしていて、それ自体がこの作品にマッチしているように思えた。