ジョン・ハート『ラスト・チャイルド』(ハヤカワミステリ,2010)(ISBN:4151767037)

 読了。いろいろな意味で「後の祭り」な物語。
 1年前の未解決事件を引きずった人々が、ひたすら苦しみながら解決を目指している。一方の主人公は、行方不明の妹を探す少年。家を出て行ったきり帰ってこない父親。ドラッグに溺れる母親。もう一方の主人公は、事件を解決にのめりこむ刑事。家庭を顧みない夫に愛想を尽かした妻。父親とコミュニケーションが取れなくなった息子。
 そんな崩壊した家庭を取り上げて、ドロドロの愛憎劇が展開している嫌な話なのに、なぜか読後感は悪くない。主人公のジョニー少年のおかげだろう。
 大人が適当なところで妥協するところを、ジョニーは妹が生きていると信じて諦めない。周囲の大人の目からは、子供っぽい駄々にしか見えないのだが、ジョニーはそんな大人の目を理解した上で、それでも現実と妥協することを受け入れられずにいる。けなげで、まっすぐな少年が、家族を取り戻すために一人で踏ん張ろうとする姿は、読んでいて胸が熱くなる。
 少年の視点から見た世界が、青空や夕日のような、美しい風景に溢れているのに、大人の視点で語られる場面は、雨や泥、汚物など地面の汚いものばかりが描写されているのも、おそらくは意図的な対比だろう。
 それでいて、ハートは少年のピュアさ、ナイーブさを無条件で賞賛していない。二人の主人公が協力して初めて、全ての謎に決着がつくような仕掛けになっている。下巻の後半部分の展開は、「機械仕掛けの神」であるところのフリーマントルの活躍を除いても、スピードと密度の両方で圧巻である。上巻のダルさを堪えるだけの価値は絶対にある。
 それにしても、少年に共感するのではなく、それを影で手助けしようとする刑事のほうに感情移入するようになったのは、自分が年をとったからなのか。