「STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ」

 例によって御達者倶楽部映画班と。
 まさかの完全新作。しかも紅莉栖視点。
 再びタイプリープマシンとタイムマシンを巡る、記憶と過去改変の物語。なんとTV版特別編の一年後の話からスタートする上に、キャラクター紹介も全くなし。完全に原作ファン以外ふるい落としにかかっているとしか思えない。
 紅莉栖視点なので、ひたすら今井麻美が喋る喋る喋る。全体のセリフの八割ぐらい紅莉栖だったんじゃないかというぐらいに。
 時間的・予算的にカツカツだったのか、絵は全体的に荒い。TV版よりちょっといいぐらい。そりゃ、原作全部見てないと意味が分からないって段階で観客はあてにできないもんなあ。

以下ネタバレ。
 見終わった後、飯を食いながら3つの疑問点が出た。SF設定が矛盾しているように見えたのだが、よくよく考えてみると、設定自体に矛盾はなくて、物語の解釈や見せ方にフェイクが含まれているだけなのではないかと思い始めた。


疑問点1:鈴羽は何の目的て過去改変をしに来たのか
 登場人物の中で、一人だけトリックスターの地位にいる阿万音鈴羽。彼女がちゃんと喋るのは紅莉栖がタイムリープをした後のこと。しかも、「紅莉栖がタイムリープしたこと」「岡部が消えること」を知識として持っていた。岡部が消えると、周りの人の記憶からも抹消されてしまうはずなのに、なぜ鈴羽がそのことを知っているのか、という疑問は、未来の紅莉栖から聞いたのだとすれば説明がつくが、そもそも何で鈴羽がこの時代にタイムトラベルしてきて、紅莉栖を使って岡部の消滅を止めに来たのかが全く説明されていない。
 彼女の目的は何だったのか?
 鈴羽の来た未来は「岡部が消滅している」「紅莉栖がタイムマシンを発明しているが使わせなかった」未来。この二つには因果関係があって「岡部が消滅したせいで、紅莉栖がタイムマシンを発明する」のだと鈴羽は説明している。現代に来た鈴羽が一貫して岡部の消滅を紅莉栖に止めさせようとするのは、このタイムマシンの発明を阻止しようとしていると考えるほかない。
 では、なぜタイムマシンの発明を阻止しなければならないのか?
 ゲーム/TV版(原作)でのタイムマシンの扱われ方を思い出してほしい。
 原作でのタイムマシンは2種類あって、(1)まゆりが死んだ世界で、岡部とダルが発明するタイムマシン(欠陥品)、(2)紅莉栖が死んだ世界で中鉢が発明し、第三次世界大戦の引き金となるタイムマシン(完成品)。この二つは形式が微妙に違っていて、説明は端折られていたものの劇場版で鈴羽が乗っていたのは、(2)の過去に戻れる完成品。つまり、鈴羽のいる未来は第三次世界大戦の発生した未来で、それを阻止するため、タイムマシンの完成を阻みに来たということなのだろう。ちなみにタイムマシンのコードナンバーはOR204。作中のC204と対になっていることを示している。しかし、β世界線で中鉢博士がやったことを、紅莉栖がしてしまうというのは皮肉が利いているとは思うけど、説明少なすぎだよ!


疑問点2:過去に戻った紅莉栖がキスしただけで岡部がシュタインズゲート世界線に戻れるのか?
 原作の時から問題になっていた岡部のファーストキスの相手。本命は萌郁さんとまゆりだったが、まさか紅莉栖本人とは……!
 劇場版では「岡部にこの世界のリアリティを持てる経験を与えれば……」という鈴羽の説明だったが、よく考えると紅莉栖のキスがそのきっかけになる、というのはおかしい。というのも、岡部のファーストキスの話は、原作の紅莉栖とのキスシーンの時のセリフ「俺は初めてじゃなかったけどな……」を伏線にしているわけだが、よく考えると、原作でもファーストキスの相手が萌郁だとは一言も言っていなかったしなあ。
 ではなぜ岡部はシュタインズゲート世界線に復帰できたのか?
 むしろ、クリスの行動のせいで、原作と劇場版で設定が変わっているポイントが別に存在する。原作では「鳳凰院凶真」の設定が「当時、テレビの特撮で登場していたマッドサイエンティスト」を演じたはずだった。ところが、劇場版では「悩みを相談した上にファーストキスを奪われた女性(紅莉栖)」から教えてもらったことになっている。特撮の話はどこに行ってしまったのか。
 ここで問題なのが、紅莉栖が「鳳凰院凶真」の名前を知ったのは、現在の岡部からだということ。岡部は紅莉栖から教えてもらって、紅莉栖は未来の岡部から教えてもらって……と循環する鶏と卵のパラドクスが生じてしまう。当日は、これが矛盾ではないか、と話していたのだが、考えてみるとパラドクスを作ること(キスではなくて)が、岡部帰還の条件だったのではないかと考えられる。そもそも岡部がどのような原因で世界からパージされるのかが全く説明されていないのだが、劇場版の「私があなたを観測する―」というコピーと、鈴羽の「岡部が消えないようにするには紅莉栖が適任」という説明から推測すると、「リーディング・シュタイナーを持つ人間がパラドクスを完成させると、関係した人間は因果律に固定される」という条件があるのではないかと予想される。あくまで予想だが。
 ちなみに、劇場版のエンディングを見ると、R世界線に飛ばされた岡部はファーストキスの相手が紅莉栖だと気付いていた。果たして他の世界線では気づいていたのかどうか。


疑問点3:芸歴長いのにミンゴスの演技って下手なままだよな?
 ほっといてやれよ! というか紅莉栖の声はアレでいいんだよ! ちょっと感情を出すのが不自然な子を演じさせたらミンゴスの右にでる声優は居ないんですよ結構マジで。