京極夏彦『邪魅の雫』(講談社ノベルス)

 日本からの救援物資その2。ネタバレ注意。
 久々に京極を手にすると、読み終わるのに非常に時間がかかる。特に序盤で、これまでの作品の登場人物やらエピソードに言及されるシーンが頻発して、思い出すのが非常に面倒である。思い出さなくても読み進む上で支障はないのだろうけれど、読んでいるはずの作品の内容を思い出せないのは気分が悪いので、思わず記憶を反芻したりして、全く進まない。神奈川県警の石井警部とか、完全に忘却の彼方でしたよ。というか、新規の読者の相手をする気が一切ないのだろうか、この本は。
 もう一つの問題として、読者が想定できないような毒薬の存在が中盤で明らかになる、という点が指摘できる。「魔法の毒薬」が存在してしまうのはどうなのか。しかも、その存在を京極堂が単に「知っていた」というのも、それに輪をかけてどうなのか。この流れだと、京極堂が「実はこの事件の犯人を最初から知っていました」と言っても違和感がなくなってしまうのだが。それゆえ、今回は京極堂と榎木津がほとんど活躍していないのだろうけれど。
 構造が先にあって、それにあわせて毒薬や人物を設計し、京極堂と榎木津にその辻褄を合わさせている感がしないでもない。京極堂はともかく榎木津は強力すぎる切り札だから、使いにくいのだろうが……。