あかほりさとる 天野由紀『オタク成金』(アフタヌーン新書,講談社)(ISBN:4063647686)

 あかほりさとるが語る80年代〜現在のライトノベル状況。
 「俺はかつて売れていた」と言い切れるほど、卓越した自己モニタリング能力を持つあかほりが、ライトノベル業界に適応していく様子が語られている。これを見る限り、やはりあかほりは「与えられた戦場で、ベストのパフォーマンスを発揮する」という点で、戦術家として超一流だ。後付けとはいえ、自分が売れなかったときの状況分析と、それに対する最適解をさらりと読者に納得させてしまう。その最適解も、あの非常識な執筆速度があればこそだったのだろうが。
 しかし、あかほりは戦略家としての視点がほとんどない。「自分と、自分に関わる人々がどう動くか」に思考を集約していて、世の中全体の流れ、のような大局には興味を示さない。具体的には、一時はライトノベル業界の中心に君臨した人物であるにも関わらず、「ライトノベルを読む人々全体をどうしたいのか」が全く見えてこない。いかにして現状を維持するか、ということには一定の解決案を出しているものの、他の作家たちも含めた全体が、どっちに進むべきなのかは語らない(それが謙虚さによるものなのか、無責任さによるものなのかははよくわからない。多分両方なのだろう)。
 来るべき転落を予測しながら、ステレオタイプの「豪遊」に金を蕩尽するあかほりの姿は、優秀な戦術家だけど、徹底して戦略家ではない彼のスタンスを如実に示しているように思えるのだけれど、気のせいかしらん(それって、まさに古いタイプのブンガク青年そのものじゃね? とも思ったけど、細かい議論をする準備はないので言い逃げておく)。