「東のエデン(2) Paradise Lost」(監督・脚本:神山健治)

 連日劇場アニメ映画を見に行く。連休だからいいよね! 学割が使えるうちに見に行っていいよね!
 話が全く動かなかった前編を見て、どうするのかと思っていたら、意外なことにテレビ版を含めた伏線回収に成功していた。滝沢の過去、セレソンゲームの黒幕Mr.Outside、「サポータ」ことNo.12の正体、Juisの正体、そしてセレソンゲームの終結と勝者への報酬。これまで投げられていた伏線すべてに、わずか90分で一応の解決を見せた神山の手腕は、まさに神山マジック。
 しかし、これだけ説明を増やすと、どこかで歪みが出るのは仕方がない。映画の後半では止まった画面で説明が流れるだけの時間が続く(そして、そのまま終わる)。伏線が回収され、「腑に落ちる」気分は十分に味わえるが、TVシリーズ最終回のミサイルの応酬のようなケレン味はまったくない。むしろ、あっちの方が全部の物語のクライマックスとしてはふさわしかったのかもしれない。
 実は劇場版は前後編あわせても、作中の時間は2日しか経過していない。特に、後編はわずか夕方〜夜明けの12時間の出来事をいくつもの視点から描いている。夜明け間近の飯沼邸でNo.1と滝沢が問答する後編のクライマックスで、時間の経過とともに徐々に部屋の中が明るくなっていくシーンは時間経過と、物語の謎が晴れていく過程を象徴的に映し出していて秀逸だった。余談だが夕方〜明け方の事件で、夜が明けていく中、延々と問答が繰り返されるシーンは、「劇場版パトレイバー2」を彷彿とさせた「押井守の後継者」神山健治の面目躍如である。
 ストーリー上で一点だけ引っかかったのは(以下文字反転)、滝沢が最後の金を使い切るシーン。全国一斉放送で自らテロリストであることを宣言し、「自分が力を持っていることの証明として」日本中の携帯電話に1円づつ電子マネーを振り込んでいる。しかし、この説明はそれまでの滝沢の行動と上手くかみ合わない。全国一斉放送の直前、「一部の優秀な人がこの国を動かすシステムには愛がない」といって、物部(を通じて12人のセレソンによって日本を変えようとしたMr.Outside)を批判した滝沢が、全ての人に1円ずつ配るのであれば、それは自らの力を誇示するためではなく、「12人が100億で日本を変える」よりも「1億人が1円で少しずつ日本を変える」という理想の実現のためであると考えたほうが、それまでの滝沢のやってきたことに合致するように思える。(反転終了)
 とはいえ、テレビ版から続いてきた「東のエデン」もこれで完結。プロダクションI.G.と羽海野チカという強力なタッグで、近年まれな完全オリジナルストーリーを成功のうちに完成させたことは、アニメ界の将来に明るい材料を与えることになったのではないか。本当にありがとうございました。