リチャード・マシスン『運命のボタン』(ハヤカワNV)(ISBN:4150412138)

 『激突!』、『アイアムレジェンド』などの原作者として知られるマシスンの短編集。『運命のボタン』も映画化された。
 マシスンはアメリカを代表する幻想ホラードラマ「トワイライトゾーン」の脚本を手がけていたことでも知られる。
 この本に収録されている13本の短編には、すべて怖い話ではあるのだが、その内容はSFあり、アンデッドあり、不条理ありとバラエティに富んでいる。尾之上浩司の和訳もリズムが良く、読んでいて引っかからない。例えて言うなら、一人で異形コレクションを書いてしまっているような感じである。
 その中で、一種異彩を放っていたのが、中短編「四角い墓場」。
 ボクシングが人間同士の殴り合いから、ロボット同士の殴り合いへと変化した近未来。型落ちのポンコツロボットのマネージャーと整備士が、起死回生の勝負のため南部の町に向かうが、試合直前にロボットが動かなくなり……という話。
 ホラー色がもっとも薄く、その代わり旧式のロボットに――それは「古き良き時代」を象徴している――対する、二人の執着と愛情をコミカルかつリリカルに描かれている。他の小説の後味が悪いだけに、この短編の後味の良さがじわっと染みるのである。
 1950年代の作品もあり、アイディア面では今となっては古くさく感じるものもあるが、場面の転換の仕方や、切れ味の良い結末など、今読んでも十分楽しめる。ホラー短編に興味がある人は読んでも悪くないんじゃないだろうか。