伊坂幸太郎『死神の精度』(文芸春秋)(ISBN:4163239804)

読了。
薄い、というのはさておいて、良い話、実に良い話だ。やはり、伊坂幸太郎は飄々とした作風が良く似合う。
調査員で死神、という主人公が、調査対象の男女を一週間調査して「可」か「保留」かを判断する、というのが全作を通したストーリー。儀礼的なものなので、基本的に「可」という結論にしとけばよいのだ、と主人公自身が述べているように、きわめてお役所仕事な調査ばかりだ。それゆえ、妙に客観的でクールでサバサバしていて、乾いた面白さがある。
この主人公の「無意味さ」が、全編を通して軽やかな味わいを呼び起こしてくれる。死神だから、死なない。仕事だから、興味もない(仕事に対するプライドはあるようだが)。そもそも「死ぬこと」に意味はない、と死神の主人公は何度も口にする。
主人公だけではない。調査対象の男女も、一週間後に死んでしまうのだから何をやっても大した意味はない。だが、人間は死神と違って、一週間後に死んでしまうとしても、一日一日の些細な行為に、ちゃんと意味があるのだよ、と最後に語りかけてくる。
クールに突き放しているようで、どことなく温かみがある。『陽気なギャングが〜』と同じような、心地よさが味わえる佳作。